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おぎにゃんと学ぼう! アニメの作り方
■第4回 絵コンテについて知りたいにゃん(前編)
にゃ! 皆さんこんにちにゃん! 最近、脂肪過多のおぎにゃんにゃ。
今日は、現在放映中の『NANA』の監督でお馴染み、浅香守生さんにお話を聞くにゃっ!
とっても仕事熱心な浅香さんに絵コンテってどうやって描いてるのか教えてもらうのにゃ。
浅香さんニボシ食べるかにゃぁ? ぽりぽり……ごっくん。では、はじまりはじまり〜!

講師プロフィール
浅香守生
1967年3月11日生まれ 兵庫県出身
1989年『YAWARA!!』で演出デビューし、その後1993年『POPS』で初監督を務める。主な監督作品は『人魚の傷』『カードキャプターさくら』(TV&劇場)『ギャラクシーエンジェル』『ちょびっツ』など多数。マッドハウス生え抜きの演出家の1人で、現在は好評放映中の『NANA』の監督として活躍中。

おぎにゃん
浅香さんこんにちにゃ!今日は『絵コンテ』について聞きたいにゃ。

浅香
絵コンテは、よくアニメーションの設計図と言われるんだ。

おぎにゃん
設計図? 

浅香
その後のアニメーション制作の基盤になるからね。絵コンテはシナリオ作りの次に取り掛かる作業でね、アニメーション制作のなかでは2番目の仕事にあたるんだ。シナリオ段階で文章によるストーリーの組み立てが行われるけれど、それは話の流れが決まったに過ぎないんだよ。実際にどう絵に起こすのか、原画やレイアウトはどんな構図で描くのか、どういった内容の芝居をさせるのか、という部分まで細かく決定するのが絵コンテの役割になる。

おぎにゃん
それで設計図にゃ?

浅香
他に、編集や音響の入り方もおおまかに決めるんだ。どこからどこまでをひとつなぎにするのか考えて、「このセリフの間(マ)はここで切る」、「シーンの間でここに音楽を入れる」というようなことも考えて形にしていくんだ。

おぎにゃん
絵コンテを描く人が作画も編集も音響もぜぇーんぶ、考えるにゃ?

浅香
絵コンテを描く人のことを絵コンテマンと言うんだ。で、その絵コンテマンが全てのバランスを考えているのが理想だと思うけど、実際に全員が音響のことまで考えているかというと……それは微妙かな。

おぎにゃん
おぎにゃんは絵を描くのが苦手にゃんだけど、絵が描けなくても絵コンテは描けるのかにゃぁ?

浅香
うん出来るよ。もちろん絵が描けるに越したことはないけど、絵コンテマンの武器っていうのはその人によって違うものだからね。絵は下手でも味のあるコマや分かりやすい絵コンテ、というものは存在するし。それに僕は絵コンテは絵を見せるものではなく流れを見せるものだと思うんだよ。面白い絵コンテ、いい絵コンテというのはパラパラとページをめくって一気にダーッと読ませちゃうもの。そこで絵の上手い下手はあまり重要ではないよ。

おぎにゃん
全体の流れを意識するほうが大事にゃ?

浅香
うん。最低限パース(注1)が分かってキャラが認識できれば、絵コンテは描けるよ、面白かどうかは別だけど。

おぎにゃん
おぎにゃんでも描けるんだにゃ! 実際の書き方も知りたいにゃぁ。

浅香
いいよ。絵コンテは絵コンテ用紙に描くんだ。

おぎにゃん
実はさっき2種類の絵コンテ用紙を見つけたにゃ。

浅香
それは、「ビスタ」と「スタンダード」だね。(※写真参照)

ビスタ スタンダード

おぎにゃん
何で2つあるにゃ?

浅香
それぞれ絵を描く枠の縦横比が違うんだ。スタンダードサイズの絵コンテ用紙は、コマの縦横比が3:4。これは昔のTV画面に合わせた比率なんだよ。でも最近はワイドTVが増えてきたので、縦横比9:16のビスタサイズの絵コンテ用紙がTVシリーズの主流になってきている。地上デジタル放送になったら全部ビスタサイズになっちゃうかもねぇ。ちなみに、他に「シネスコ」という用紙もあって、こちらの縦横比は1:2だよ。

おぎにゃん
TV画面のサイズ変化が絵コンテ用紙にも影響してくるんだにゃ。

浅香
スタンダードサイズが主流のときでも、映画的に見せるために上下を黒く切って画面を細くするイレギュラーな手法があったんだ。最近はほとんど見なくなっちゃったけどね。あと一般的に横長の方が人間の視界に近いと言われていて、スタンダードに比べてビスタやシネスコの画面サイズの方が自然に感じられるんだね。僕がレイアウトを切っているときでもビスタの方が切りやすい。ビスタに慣れていてスタンダードサイズに戻るとすごく狭く感じる。

おぎにゃん
知らなかったにゃ。

浅香
浅香さん作成 おぎにゃん絵コンテ絵コンテの描き方も説明するね。僕が実際に描いた絵コンテがこれ。(※絵コンテ参照)

おぎにゃん
にゃっほ! おぎにゃんがいるにゃん!!

浅香
まず「PICTURE」と書かれた欄に絵を描くんだ。

おぎにゃん
お師匠が3割り増しでカッコよくなってるにゃ。……、杖の横に「T光」と書いてあるのは何にゃ?

浅香
それは透過光のこと。透過光というのは光を表現するための撮影方法のことで、「杖からの閃光は透過光で撮影処理してください」って意味なんだよ。

おぎにゃん
なるほどにゃ〜。

浅香
上から4コマ目の右横に、矢印で「マルチボケ」と書いてあるんだけど、これも撮影方法の指定なんだよね。マルチボケというのは、手前の人やものをピンボケさせること。4コマ目のイラストの場合、おぎにゃんに焦点を合わせているから、手前にいるアニメ仙人は輪郭がぼやけるはずなんだよ。それを絵コンテ段階で指定しておく。逆に、遠くにあるものや背景をピンボケさせる場合は「BGボケ」と言うんだ。

おぎにゃん
他にもおぎにゃんの知らない単語がいっぱい書いてあるにゃ……。

浅香
順番に見ていこうか。「PICTURE」の右隣にある「CAM」という欄はね、基本的にはカメラワークの説明を描き込む項目なんだ。CAMっていうのはカメラの略だよ。この絵コンテで僕は「PAN UP」と書いてカメラワークを指定した。

おぎにゃん
ぱんあっぷ?

浅香
「PAN」は移動、「UP」は上に、という意味で、PAN UPとは下から上にカメラを移動させる手法のこと。通常絵コンテは、上のコマから下のコマに向かって読み進むんだけど、「アニメ仙人の全身が下から上に向かって見えてくる映像が欲しい」という場合だってある。そういうときは何コマかぶっちぎってアニメ仙人の全身を描いた後に、CAM欄へPAN UPと注意書きをして「下から上に向かっていく映像になりますよ」ということを示すんだ。

おぎにゃん
矢印の始まりから終わりまでがPAN UP指定になっているんだにゃ。

浅香
絵コンテ用紙の上では、光る杖の画、アニメ仙人の上半身の画、下半身の画、という順番でイラストが続いているけど、実際にアニメーションになったら、アニメ仙人の下半身から上半身に向かってカメラが移動していく。それがPAN UPなんだ。

おぎにゃん
じゃ、「PAN DOWN」もあるの?

浅香
もちろん。PAN DOWNだったら、アニメ仙人の上半身から下半身へカメラを移動させていくんだ。PAN UPとPAN DOWNのどちらの手法を使った方が効果的か、もしくは別の撮影方法にするべきかを考えるのも絵コンテマンの役目だね。

おぎにゃん
アニメーションの見せ方やシーンの流れを組み立てているんだにゃ。まさに設計図にゃ。

浅香
CAM欄の隣の「NOTE」と書かれた欄には芝居内容や場所・時間の説明を書き込む。イラストの補足を文章で記しておくんだ。で、その隣の「DIALOGE」の欄には実際に映像に入ることになる効果音やバックミュージック、セリフを書く。この2項目は、シナリオに書かれている内容とほぼ同じことを絵コンテに書き写すんだけど、シナリオ段階よりも明確に、絵に合わせた指示をしていく必要がある。例えば、おぎにゃんの「あああ…」というセリフは顔アップのカット内で言い終わり、次のアニメ仙人の耳アップの場面では「みみ毛が枝毛…」という言葉が続く、というようにね。どのタイミングでカットにセリフが重なるのか、絵コンテ段階で指定しておくんだ。「OFF」って書いてあるのは、「画面内にはおぎにゃんの姿がないけどセリフをしゃべります」という意味だよ。

おぎにゃん
NOTE欄の「FI」ってのは何にゃ?

浅香
フェードイン(Fade In)といって、黒い画面からだんだんと場面を明るくする手法だよ。薄暗い画面から徐々にアニメ仙人の杖が浮かび上がってくる。逆だったらフェードアウト(Fade Out)と言って、画面がどんどん黒くなっていく。フェードインは場面の始まりに、フェードアウトは終わるときに、よく使われるね。

おぎにゃん
その下の、「ハイコン」は?

浅香
ハイコントラストの略でね、通常より明暗のはっきりした画面を作る手法なんだ。それによって、映像に迫力が出る。

おぎにゃん
お師匠が実際よりも立派に見えるってわけだにゃ!

 

第4回中編に続く

注1)遠近法を使って描いた構図。「パースが狂っている」と言ったら画面の遠近感や立体感が変ってことにゃ。

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