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Interview

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❺目と眉のバランスが難しかった『ちはやふる』

――濱田さんは、浅香さんの演出法について、どんなふうに思われますか。

濱田 全てのシーンに手を入れる人なんです。自分のやりたいことがそれでちゃんと反映されるので。今回の『山田くん(『山田くんとLv999の恋をする』)』は、最初の3話ぐらいがめちゃくちゃ忙しくて、ほとんど演出チェックしていないんですよ。しょうがないから自分が最終的なものを全部見てやっているんですけど。

浅香 最初に言ったものね。今回あまり手を入れないからって。

濱田 だから、今回は手を抜いていくのかなって(笑)。

浅香 いや、そんなことないよ(笑)。

濱田 でも、コンテが終わったらどんどん入れだして。今はもうレイアウトに全部チェックを入れていますよ。

浅香 最初はもう演出さんと、作監さん、濱ちゃんにお任せしようと思っていたんです。字だけの指示で、例えば「原作に合わせて」とか「これはいらない」と書いて直していたんですけど……。そのときはまだコンテ直しが忙しかったのですが、あるとき「これは直さないとまずいな」というものが上がってきて。それをきっかけにレイアウトを相当数直して。ラフ原もシートも全部書き直して。

濱田 でも『ちはや(『ちはやふる』)』のときも全部見ていたじゃん。

浅香 あれは、ルールをちゃんと熟知して、ポーズをちゃんと描いてくれる人がいなかったから。

濱田 いや、それ以外でも見ていたよね(笑)。

浅香 だって、末次(由紀)さんのキャラを描ける人が濱ちゃんしかいないから……。

濱田 そこまでやる監督って、そうそういないんじゃないですかね。

――では手を入れていくことでクオリティを上げていく、と。それはもう本当に体力勝負ですね。

浅香 もうそろそろつらいですね。ちゃんとやり方を考えないと。

濱田 任せてもそれを見て直すでしょう。助監督が手を入れたりしても、けっきょく見たら直しちゃうんですよ。見せない方向で行く以外ない(笑)。

――『ちはやふる』といえば、これもお二人が組んでやられた作品ですよね。

濱田 キャラクターは非常に苦労しました。ギリギリまで何回も描き直して、末次さんとやり取りしたんです。「目と眉が顔全体の半分ぐらいに来るようなバランスで描いてください」と言われて、ようやくちゃんとしたものが描けて。そのバランスは他の作品でも活きているんです。そういうやり方があるんだと気づかせてもらったんですね。

――『ちはやふる』は今回の「マッドハウス50周年記念」の人気投票で上位をもらったんですよね。

浅香 ああ、ツイッター(現:X)で見ました。

――で、濱田さんの描いた太一が、キャラクター人気投票で上位だったと。

濱田 太一が好きな人、多いですからね。

――そういう意味ではまた新たなマッドハウスの代表作になったと思うのですが、競技かるたの特殊性におけるご苦労はかなりあったんですか。

浅香 あ、もう、全てですね。かるたはいまだに何回も現場を見させていただいたり、マンガや本で勉強をしましたけど。それでもまだ全然知識量が足りないですね。

――やっぱり奥が深いんですね。

浅香 『ちはやふる』という作品をちゃんと作るためには、競技かるたを知らなければいけないのが第一歩だと思っていて。いまだにわからないです。しばらく離れていたので、すっかり忘れているし。

――アクション物としての側面もある作品でしたが、やはりかるたアクションにもこだわりがあったのでしょうか。

浅香 そうですね。なるべく実際のスピードで見せたかったですし。本物の読手さんの声で読みをやってもらっていたので、早く取れたタイミングはこの文字のときじゃないといけない、なんてこともあって。それで逆算すると、作画もちゃんとした動きにしないと合わなくなりますし。

濱田 監督がリアルにこだわっているので、そこを描くのが大変でした。決まりがあるのでそれを守りつつ、独特のポーズがあるので、そこも外せない。知らない人間には全く描けないし、ルールもおそらく知らないので。それは全部こっちで直していました。

浅香 作画だけじゃなくて、絵コンテも難しいんですよ。

濱田 絵コンテは川尻さんがいっぱいやっているけど……。

浅香 うん。ビシーッて、川尻ポーズになるんですよ。かっこよくてね。肉まんくんが入部するときの話数(第八首「たえてひさしくなりぬれど」)は川尻さんで、だいぶその川尻さんのニュアンスが残っていますよ。すごいクールな千早が、流線的なポーズでかるたを取っています(笑)。


浅香守生:監督/絵コンテ/演出
マッドハウスを代表する演出家の一人。代表作は『カードキャプターさくら』(1998~2000年)、『NANA』(2006~2007年)、『ちはやふる』(2011~2012年)、『ちはやふる2』(2013年)、『俺物語!!』(2015年)、『カードキャプターさくら クリアカード編』(2018)、『ちはやふる3』(2019年)。

画面の隅々まで気を配り、巧みな技術で丹念に、ときに大胆に心情を描く、「詩情」を感じさせる演出で数々の作品を手掛けてきた。なかでも『カードキャプターさくら』は女子小学生読者が多い『なかよし』掲載の少女漫画が原作であったにも関わらず、「オタク」と呼ばれる大人の視聴者層を確立させたとも言われる。アニメ史に残る作品であり、日本のみならず海外のファンも多い。

濱田 邦彦:キャラクターデザイン/総作画監督/作画監督
初めて携わったマッドハウス作品は『Cyber City Oedo 808』。代表作に総作画監督・キャラクターデザインとして『NANA』、『俺物語!!』、『カードキャプターさくら クリアカード編』、『ちはやふる1~3』がある。人間味溢れるやわらかな表情を描き、浅香守生監督とタッグを組む作品が多い。